習い事を始める前に考えるべきこと
「周りの子がピアノを習い始めた」「英語は早くから始めた方がいいと聞いた」「運動系の習い事もさせたい」。子どもの習い事について、多くの親が悩んでいます。習い事は、子どもの可能性を広げ、新しいスキルや経験を与える素晴らしい機会です。しかし、選び方や始めるタイミングを間違えると、子どもにとっても親にとっても負担になってしまいます。
現代の子どもたちは、以前に比べて多くの習い事をしています。複数の習い事を掛け持ちし、平日も週末も忙しくスケジュールが埋まっている子も珍しくありません。しかし、本当にそれが子どものためになっているのでしょうか。
習い事を選ぶ際、最も大切なのは「誰のための習い事か」を明確にすることです。親の希望で始めた習い事は、子どもが興味を持てずに長続きしないことがあります。「自分ができなかったから子どもには」という親の夢の押し付けになっていないか、常に自問する必要があります。
また、習い事の数や内容も重要です。あれもこれもと詰め込みすぎると、子どもは疲弊し、自由な遊びの時間がなくなります。幼児期には、自由な遊びの中で想像力や社会性を育むことも大切です。習い事だけが子どもの成長を促すわけではありません。
経済的な負担も無視できません。習い事には月謝、教材費、発表会費用など、様々なコストがかかります。家計に無理のない範囲で選ぶことも、長く続けるためには重要です。
送迎の負担も考慮すべき点です。共働き家庭では、平日の送迎が難しいこともあります。祖父母の協力が得られるか、送迎サービスがあるか、場所は通いやすいかなども、選択のポイントになります。
本記事では、子どもの習い事を選ぶ際の基準、年齢別のおすすめ習い事、長く続けさせるコツ、辞め時の見極め方など、実践的な情報をお届けします。子どもの興味と能力を最大限に引き出す習い事選びの参考にしてください。
習い事を始める適切な年齢
習い事にはそれぞれ、始めるのに適した年齢があります。早ければいいというものではありません。
3歳以前:基本的には不要
3歳未満の子どもには、特別な習い事は必要ありません。この時期は、親との愛着形成や基本的な生活習慣を身につけることが最優先です。自由な遊びの中で、五感を使い、好奇心を育てることが大切です。
ベビースイミングやリトミックなど、親子で参加する習い事は、親子のコミュニケーションの場として楽しむ分には良いでしょう。ただし、「早期教育」を意識しすぎる必要はありません。
3〜4歳:興味に応じて1つ程度
3歳を過ぎると、体力もつき、集中力も少しずつ伸びてきます。子どもが興味を示すものがあれば、試してみるのも良い時期です。
ただし、この年齢ではまだ集中力が続かないため、レッスン時間は30分〜45分程度の短いものが適しています。また、楽しく遊ぶ延長線上にあるような内容が理想的です。
一度に複数の習い事を始めるのではなく、まずは1つから始めて様子を見ましょう。
5〜6歳:本格的な習い事のスタート
5歳を過ぎると、理解力や体力が向上し、本格的な習い事を始めるのに適した時期になります。ルールを理解できるようになり、グループレッスンにも参加できます。
この年齢からは、子ども自身の「やってみたい」という意思を尊重することが大切です。体験レッスンに参加して、子どもの反応を見てから決めましょう。
小学生:選択肢が広がる
小学生になると、選択肢が大きく広がります。学習系、運動系、芸術系など、様々な習い事に挑戦できます。
ただし、学校の宿題や友達との遊びの時間も大切です。習い事で埋め尽くすのではなく、バランスを考えましょう。週に2〜3個が目安です。
思春期:本人の意思を最優先
中学生以降は、本人の意思が最も重要です。部活動との両立も考慮しながら、本当に続けたいものだけを選ばせましょう。
親が無理に続けさせると、かえって嫌いになってしまうこともあります。
ジャンル別おすすめ習い事
習い事は大きく分けて、運動系、学習系、芸術系、その他に分類できます。それぞれの特徴とおすすめを見ていきましょう。
運動系の習い事
スイミング 最も人気のある習い事の一つです。全身運動で体力がつき、喘息の改善にも効果があると言われています。水に対する恐怖心を克服できるのもメリットです。3歳頃から始められます。
体操・体育教室 マット運動、跳び箱、鉄棒など、学校体育の基礎を学べます。柔軟性やバランス感覚が養われ、運動が苦手な子にもおすすめです。3〜4歳から始められます。
サッカー チームスポーツの代表格です。協調性やコミュニケーション能力が育ちます。体力と持久力もつきます。4〜5歳から始められます。
ダンス リズム感や表現力が養われます。発表会で達成感も得られます。男女問わず人気が高まっています。3歳頃から始められます。
武道(空手・柔道など) 礼儀作法が身につき、精神力も鍛えられます。護身術としても役立ちます。5歳頃から始められます。
テニス・野球・バスケットボール 小学生以降に人気のスポーツです。技術習得には時間がかかりますが、生涯楽しめるスポーツです。
学習系の習い事
英語・英会話 グローバル化が進む現代、英語力は重要です。耳が柔軟な幼児期から始めると、発音が良くなると言われています。ただし、週1回のレッスンだけでは十分ではないため、家庭でのサポートも必要です。3歳頃から始められます。
学習塾・公文 学校の勉強の補強や先取り学習ができます。学習習慣を身につける効果もあります。小学生から始めるのが一般的です。
プログラミング 論理的思考力や問題解決能力が養われます。これからの時代に必要なスキルです。小学生から始められます。
そろばん 計算力と集中力が身につきます。脳の発達にも良いと言われています。5〜6歳から始められます。
書道 集中力と美しい字が身につきます。姿勢も良くなります。5歳頃から始められます。
芸術系の習い事
ピアノ 音感やリズム感が養われ、両手を別々に動かすことで脳の発達にも良いとされています。発表会で達成感も得られます。4〜5歳から始めるのが一般的です。
絵画・造形教室 創造力や表現力が育ちます。自由な発想を大切にする教室を選びましょう。3歳頃から始められます。
バレエ 姿勢が良くなり、柔軟性とリズム感が養われます。女の子に人気ですが、男の子も増えています。3〜4歳から始められます。
その他の音楽(バイオリン・ギターなど) それぞれの楽器の特性に応じて、開始年齢や習得の難易度が異なります。子どもの興味に応じて選びましょう。
その他の習い事
料理教室 食への興味が高まり、生きる力が身につきます。親子で参加できる教室もあります。小学生から始められます。
ロボット教室 科学への興味が育ち、論理的思考力が養われます。プログラミングと組み合わせることもできます。小学生から始められます。
習い事選びの5つのポイント
習い事を選ぶ際、以下の5つのポイントを押さえましょう。
1. 子どもの興味と適性を見極める
最も大切なのは、子ども自身が興味を持っているかどうかです。親が「これをさせたい」と思っても、子どもに興味がなければ長続きしません。
子どもの日常の様子から、何に興味があるかを観察しましょう。音楽が好き、体を動かすのが好き、絵を描くのが好きなど、ヒントはたくさんあります。
また、体験レッスンを活用しましょう。実際にやってみて、子どもが「楽しい」「またやりたい」と言うかどうかが判断基準です。
2. 続けられる環境か
通いやすい場所にあるか、送迎は可能か、曜日や時間は都合が良いかなど、物理的に続けられる環境かを確認します。
また、月謝や教材費は家計に無理がないか、発表会やコンクールなどの追加費用はどのくらいかかるかも確認しましょう。
3. 指導者との相性
特に小さい子どもの場合、先生との相性が非常に重要です。厳しすぎず、優しすぎず、子どものペースに合わせて指導してくれる先生が理想です。
体験レッスンで、先生の雰囲気や指導方法を確認しましょう。子どもが「この先生好き」と言うかどうかも大切なサインです。
4. 教室の雰囲気
生徒たちが楽しそうに学んでいるか、教室は清潔で安全か、他の保護者の雰囲気はどうかなども確認します。
競争が激しすぎる教室は、子どもにプレッシャーを与えることもあります。教室の方針が家庭の教育方針と合っているかも重要です。
5. 将来の見通し
その習い事を通して、子どもに何を身につけてほしいのか、目標を明確にしましょう。プロを目指すのか、趣味として楽しむのか、生涯続けられるものにしたいのかなど、方向性を考えます。
ただし、最初から高い目標を設定しすぎると、子どもも親もプレッシャーになります。まずは楽しむことを優先しましょう。
習い事を続けさせるコツ
習い事を始めても、すぐに「やめたい」と言い出すことはよくあります。ここでは、長く続けさせるコツをご紹介します。
最初のハードルを下げる
「毎日練習しなさい」と最初から厳しくすると、子どもは嫌になってしまいます。最初は「週に1回、5分だけでもいいよ」とハードルを下げ、徐々に増やしていきましょう。
習い事が「楽しいもの」から「苦しいもの」にならないよう注意が必要です。
小さな成長を認める
「まだこれしかできない」ではなく、「これができるようになった」と、小さな成長を認めて褒めましょう。
発表会や試合、昇級テストなど、成果が見える機会があると、子どものモチベーションも上がります。
練習を習慣化する
毎日同じ時間に練習する習慣をつけると、歯磨きのように当たり前のこととして続けられます。
「宿題の後」「夕食の前」など、生活のルーティンに組み込むと効果的です。
親も一緒に楽しむ
子どもだけに押し付けるのではなく、親も興味を持ち、一緒に楽しみましょう。ピアノなら一緒に聴く、サッカーなら一緒にボールを蹴るなど、共有する時間が子どものモチベーションを高めます。
「やめたい」と言った時の対応
一時的に「やめたい」と言うことは、よくあります。すぐにやめさせるのではなく、まず理由を聞きましょう。
友達とトラブルがあった、先生が怖い、難しくてできないなど、理由によっては解決できることもあります。「あと1ヶ月だけ頑張ってみよう」と期限を設けるのも一つの方法です。
目標を一緒に立てる
「次の発表会でこの曲を弾く」「来月の試合で点を取る」など、短期的な目標を一緒に立てましょう。目標があると、頑張る理由が明確になります。
達成したら、しっかり褒めて、次の目標を立てます。
休息も大切に
疲れている時、体調が悪い時は、無理に行かせないことも大切です。「今日は休んでもいいよ」と言える柔軟性を持ちましょう。
休むことで、かえって「やっぱり行きたい」という気持ちが戻ることもあります。
習い事のやめ時の見極め方
長く続けることが必ずしも正解ではありません。やめるべきタイミングもあります。
明らかに苦痛そう
毎回行くのを嫌がる、習い事の日は朝から機嫌が悪い、ストレスで体調を崩すなど、明らかに苦痛そうな場合は、続ける意味がありません。
無理に続けさせると、その習い事だけでなく、関連する活動すべてが嫌いになる可能性があります。
他にやりたいことができた
子どもの興味は変化します。新しくやりたいことができた場合、それが本気なら、切り替えを検討しても良いでしょう。
ただし、「すぐ飽きる」癖をつけないよう、ある程度の期間は続けさせることも大切です。
スケジュールが過密すぎる
習い事が多すぎて、宿題をする時間がない、友達と遊ぶ時間がない、家族との時間がないという状況は健全ではありません。
何かを減らす必要があるなら、優先順位をつけて、最も興味の薄いものをやめることを検討しましょう。
経済的・物理的に続けられない
家計の事情が変わった、送迎が困難になったなど、物理的に続けられない状況になることもあります。
正直に子どもに説明し、理解を求めましょう。「あなたが悪いわけじゃない」ということを伝えることが大切です。
目標を達成した
「泳げるようになる」「字が上手になる」など、当初の目標を達成した場合、区切りとしてやめることも選択肢です。
ただし、子どもが続けたいと言うなら、新しい目標を立てて続けるのも良いでしょう。
複数の習い事のバランスの取り方
複数の習い事をする場合、バランスが重要です。
運動系と文化系を組み合わせる
運動系だけ、または文化系だけに偏らず、両方をバランスよく取り入れると、心身ともにバランス良く発達します。
例えば、「ピアノとサッカー」「英語とスイミング」など、異なるジャンルを組み合わせると良いでしょう。
週に2〜3個が目安
小学生の場合、週に2〜3個が適切です。これ以上増やすと、学校の宿題や友達と遊ぶ時間が確保できなくなります。
幼児の場合は、1〜2個で十分です。
曜日を分散させる
同じ日に複数の習い事を詰め込むのではなく、曜日を分散させましょう。子どもも親も疲弊してしまいます。
また、週に1日は習い事のない日を作り、ゆっくり過ごす時間も確保しましょう。
長期休暇の過ごし方
夏休みなどの長期休暇には、習い事が休みになったり、逆に集中レッスンがあったりします。
休みの期間は、普段できない体験(キャンプ、旅行、読書など)をする良い機会です。習い事だけで埋め尽くさないようにしましょう。
習い事にかかる費用の目安
習い事には、様々な費用がかかります。事前に確認しておきましょう。
月謝
習い事によって幅がありますが、一般的な目安は以下の通りです。
- スイミング:6,000〜8,000円
- ピアノ:7,000〜10,000円
- 英会話:8,000〜12,000円
- 学習塾:10,000〜20,000円(学年により変動)
- サッカー・野球:3,000〜5,000円(地域のクラブチーム)
その他の費用
月謝以外にも、以下のような費用がかかることがあります。
- 入会金:5,000〜10,000円程度
- 教材費:年間数千円〜数万円
- ユニフォームや道具代:数千円〜数万円
- 発表会・試合の費用:数千円〜数万円
- 交通費:月数千円
これらを合計すると、1つの習い事で年間10万円以上かかることも珍しくありません。
家計に無理のない範囲で
習い事は教育投資ですが、家計を圧迫してまで続ける必要はありません。無理のない範囲で選び、場合によっては公民館の安価な教室や、オンラインレッスンなども検討しましょう。
まとめ:子どもの「やりたい」を応援しよう
習い事は、子どもの可能性を広げる素晴らしい機会です。しかし、最も大切なのは、子ども自身が「やりたい」と思っているかどうかです。
親の期待や周りの子との比較で習い事を決めるのではなく、子どもの興味と個性を尊重しましょう。体験レッスンで子どもの反応を見て、本当に楽しそうにしているかを確認してから始めることが大切です。
始めたからには、すぐにやめさせるのではなく、ある程度の期間は見守りましょう。しかし、明らかに苦痛そうな場合は、無理に続けさせる必要はありません。習い事が子どもにとってストレスになっては、本末転倒です。
複数の習い事をする場合は、バランスを考えましょう。週に2〜3個程度に抑え、自由な遊びの時間、家族との時間、友達との時間も確保することが大切です。
経済的な負担も考慮し、家計に無理のない範囲で選びましょう。高価な習い事をたくさんさせることが、良い親の条件ではありません。
そして何より、親自身も楽しむことが大切です。子どもの成長を温かく見守り、小さな進歩を一緒に喜び、応援する。そんな姿勢が、子どもの「やりたい」気持ちを育て、長く続けるモチベーションになります。
習い事を通して、子どもが新しいスキルを身につけ、自信をつけ、人生を豊かにする。そのサポートができることを、楽しんでいきましょう。応援しています。
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